<前回までのお話>
11年ぶりに訪れたベニスの旅も後半にさしかかった頃、MINAは偶然立ち寄ったドルソドゥーロ地区のカフェ・レストランで、ハンサムな店員さん(=実は、オーナーさんだった)と知り合い、意気投合。スケッチの合間のひと休みだけのつもりが夕飯までそこで過ごし、お店を出た後や翌日も続く彼の猛烈なプッシュにクラクラしたMINAは結局、彼の店に2日連続で通うことに。2日目に店を訪れた食後、仕事が終わった彼とともに店を出て夜のベニスをお散歩し、ロマンティックな夜を過ごしたが・・・。
(比較的「真面目に」書いている6日目の旅ブログ=英語版=はこちら「Veneniz 2013: Giorno 6,7」 )
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ロマンティックな夜が明けて、まだ何となく夢見心地のまま、朝イチで再びサンマルコ広場に向かいました。明日の昼の便でベニスを発つので、きょうが「ベニスでの最後の1日」になるわけで、家族や友人へのお土産を買ったり、実はまだ内部には入ったことのないサンマルコ寺院見物など、「To Do List」には、沢山の課題が残っています。
そしてその「To Do List」の欄外には、昨夜素敵な時間を過ごしたリッカルドのことも・・・。
まるで自分がドラマの主人公になったような、出来すぎぐらいにロマンティックな出来事をぼんやり反芻している間にも、「現実の世界」へと戻る時間は刻一刻と迫っているのです。「ベニスの魔法」がとけてしまうことが怖くて、悲しくて・・・昨夜の出来事を思い出すたびに胸の奥がズキンと痛み、そして少しずつ重くなっていくのでした。
そんな重みに耐えかねて、とりあえずは「To Do List」をこなそうと、サンマルコ広場に向かいました。圧倒的な大きさと黄金に輝くサンマルコ寺院の聖堂内を巡り、バルコニーに出て息をのむ広場の眺めを前に、思わずため息がこぼれました。
「なんだか、今自分がここにいるのが夢みたい。そして、あの甘い時間もやはり、夢だったのかもしれない・・・」
昨夜リッカルドは、たくさん自分の事を話してくれました。大学では演劇を専攻していたこと。役者ではなく、舞台製作を目指していたけれど、結局その道には進まず、友人から誘われてレストラン・ビジネスに入ったこと・・・。バーマン・スクールに入って、ソムリエの資格も取って・・・10年間必死に働いて、ついに自分の店を手に入れたこと。 そのお店がようやく軌道に乗ったので、故郷から両親を呼び寄せて、彼らのために部屋を借りたこと・・・。
ひとつひとつ夢を手に入れた彼の生活の全ては今、ここベニスにあります。彼は故郷の街とベニスでの生活しか知らないけれど、おそらくこのまま生涯この地を離れることはないのでしょう。
方や私は旅の絵描き。ベニスは絵になる素晴らしい街ですが、私にはまだまだ他にも沢山見たい景色、描きたい街があるのです。リッカルドと私の人生のベクトルは、偶然重なった今この瞬間を除いては、まったく違う方向に向かっているのは明らかです。いいえ、むしろ私たち二人のベクトルが、一瞬でも重なり、互いの心が共振したこと自体が奇跡であり、それこそが「ベニスの魔法」のなせる技なのです。
サンマルコ寺院を出て、近くのアクセサリーショップに入ると、スマホがブルっと震えました。リッカルドからのテキストメールです。
「今、どこにいる?」
胸の奥がまたズキンと痛みました。画面をみつめたまま返信できずにいると、すぐにまたスマホがブルっと震えて着信を伝えます。
「会いたい。ランチが終われば夕方まで時間が空くから、どこかで会えないかな?」
・・・もう一度彼の素敵な笑顔は見たいけれど、彼に会ったところで、私が明日の便で日本に戻るという現実は変わらないことがつらくて、また胸の奥がズキンとしました。何を返信して良いか分からず、そのままそっとスマホをバッグにしまって買い物を続けていると、今度は携帯が鳴り出しました。
「Ciao, Mina! How are you, my Princess? 今、どこ?僕のメッセージ、届いてる?」
「・・・今は、サンマルコ広場の近く」
「もうすぐ仕事がひと息つくから、会おう。近くに行くよ」
胸の奥がズキンとして、さらに鼓動も早くなって、うまく言葉になりません。
「あのね、リッカルド。もう・・・会えないの」
「どうして?僕、昨夜何かマズいことしちゃったのかな?僕、ダメだった?僕のこと、嫌いになったの?」
畳みかけてくるリッカルドの声と共に、昨夜彼が話してくれた色々なことが思い出されました。
「違うよ、リッカルド。あなたはとても素敵だった。何もかも、完璧な夜だったよ。だからこそ、素敵な思い出は、そのままにしておきたいの」
「そんなの嫌だ。明日日本に戻るなら、その前に会いたい。今から夕方まで一緒にいられるし、夜だって店に来てくれれば、またその後も一緒にいられる。朝まで一緒にいよう。空港までは僕が送って行くから」
実は最終日の夜の「To Do List」の最優先項目は、この旅に出る前から決めていたのです。それは、カナル越しに夕日を受けた聖サルーテ教会の絵を描くこと。でも、リッカルドの必死さと優しさに、胸の奥の痛みは増し、もう会わないと決めていたはずの心がグラグラと揺れるのでした。
(最終回のつもりが、長くなってしまったので・・・もうちょっと、つづく)
<第1話>ベニス4日目: 「恋の予感」(英語編の後ろに日本語があります)
<第2話>ベニス5日目: 「ロマンチックな夜」
<第4話>ベニス6-7日目: 「恋の魔法よ、とけないで!」(最終回)
11年ぶりに訪れたベニスの旅も後半にさしかかった頃、MINAは偶然立ち寄ったドルソドゥーロ地区のカフェ・レストランで、ハンサムな店員さん(=実は、オーナーさんだった)と知り合い、意気投合。スケッチの合間のひと休みだけのつもりが夕飯までそこで過ごし、お店を出た後や翌日も続く彼の猛烈なプッシュにクラクラしたMINAは結局、彼の店に2日連続で通うことに。2日目に店を訪れた食後、仕事が終わった彼とともに店を出て夜のベニスをお散歩し、ロマンティックな夜を過ごしたが・・・。
(比較的「真面目に」書いている6日目の旅ブログ=英語版=はこちら「Veneniz 2013: Giorno 6,7」 )
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ロマンティックな夜が明けて、まだ何となく夢見心地のまま、朝イチで再びサンマルコ広場に向かいました。明日の昼の便でベニスを発つので、きょうが「ベニスでの最後の1日」になるわけで、家族や友人へのお土産を買ったり、実はまだ内部には入ったことのないサンマルコ寺院見物など、「To Do List」には、沢山の課題が残っています。
そしてその「To Do List」の欄外には、昨夜素敵な時間を過ごしたリッカルドのことも・・・。
まるで自分がドラマの主人公になったような、出来すぎぐらいにロマンティックな出来事をぼんやり反芻している間にも、「現実の世界」へと戻る時間は刻一刻と迫っているのです。「ベニスの魔法」がとけてしまうことが怖くて、悲しくて・・・昨夜の出来事を思い出すたびに胸の奥がズキンと痛み、そして少しずつ重くなっていくのでした。
そんな重みに耐えかねて、とりあえずは「To Do List」をこなそうと、サンマルコ広場に向かいました。圧倒的な大きさと黄金に輝くサンマルコ寺院の聖堂内を巡り、バルコニーに出て息をのむ広場の眺めを前に、思わずため息がこぼれました。
「なんだか、今自分がここにいるのが夢みたい。そして、あの甘い時間もやはり、夢だったのかもしれない・・・」
昨夜リッカルドは、たくさん自分の事を話してくれました。大学では演劇を専攻していたこと。役者ではなく、舞台製作を目指していたけれど、結局その道には進まず、友人から誘われてレストラン・ビジネスに入ったこと・・・。バーマン・スクールに入って、ソムリエの資格も取って・・・10年間必死に働いて、ついに自分の店を手に入れたこと。 そのお店がようやく軌道に乗ったので、故郷から両親を呼び寄せて、彼らのために部屋を借りたこと・・・。
ひとつひとつ夢を手に入れた彼の生活の全ては今、ここベニスにあります。彼は故郷の街とベニスでの生活しか知らないけれど、おそらくこのまま生涯この地を離れることはないのでしょう。
方や私は旅の絵描き。ベニスは絵になる素晴らしい街ですが、私にはまだまだ他にも沢山見たい景色、描きたい街があるのです。リッカルドと私の人生のベクトルは、偶然重なった今この瞬間を除いては、まったく違う方向に向かっているのは明らかです。いいえ、むしろ私たち二人のベクトルが、一瞬でも重なり、互いの心が共振したこと自体が奇跡であり、それこそが「ベニスの魔法」のなせる技なのです。
サンマルコ寺院を出て、近くのアクセサリーショップに入ると、スマホがブルっと震えました。リッカルドからのテキストメールです。
「今、どこにいる?」
胸の奥がまたズキンと痛みました。画面をみつめたまま返信できずにいると、すぐにまたスマホがブルっと震えて着信を伝えます。
「会いたい。ランチが終われば夕方まで時間が空くから、どこかで会えないかな?」
・・・もう一度彼の素敵な笑顔は見たいけれど、彼に会ったところで、私が明日の便で日本に戻るという現実は変わらないことがつらくて、また胸の奥がズキンとしました。何を返信して良いか分からず、そのままそっとスマホをバッグにしまって買い物を続けていると、今度は携帯が鳴り出しました。
「Ciao, Mina! How are you, my Princess? 今、どこ?僕のメッセージ、届いてる?」
「・・・今は、サンマルコ広場の近く」
「もうすぐ仕事がひと息つくから、会おう。近くに行くよ」
胸の奥がズキンとして、さらに鼓動も早くなって、うまく言葉になりません。
「あのね、リッカルド。もう・・・会えないの」
「どうして?僕、昨夜何かマズいことしちゃったのかな?僕、ダメだった?僕のこと、嫌いになったの?」
畳みかけてくるリッカルドの声と共に、昨夜彼が話してくれた色々なことが思い出されました。
「違うよ、リッカルド。あなたはとても素敵だった。何もかも、完璧な夜だったよ。だからこそ、素敵な思い出は、そのままにしておきたいの」
「そんなの嫌だ。明日日本に戻るなら、その前に会いたい。今から夕方まで一緒にいられるし、夜だって店に来てくれれば、またその後も一緒にいられる。朝まで一緒にいよう。空港までは僕が送って行くから」
実は最終日の夜の「To Do List」の最優先項目は、この旅に出る前から決めていたのです。それは、カナル越しに夕日を受けた聖サルーテ教会の絵を描くこと。でも、リッカルドの必死さと優しさに、胸の奥の痛みは増し、もう会わないと決めていたはずの心がグラグラと揺れるのでした。
(最終回のつもりが、長くなってしまったので・・・もうちょっと、つづく)
<第1話>ベニス4日目: 「恋の予感」(英語編の後ろに日本語があります)
<第2話>ベニス5日目: 「ロマンチックな夜」
<第4話>ベニス6-7日目: 「恋の魔法よ、とけないで!」(最終回)
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